■ 「元店長が暴露する アキバPCショップの秘密」(毎日コミュニケーションズ刊・催馬楽 吉之丞著) についての感想みたいなもの
ということでレビューなんですが。この本はアキバのPCショップの裏側を、元店長の筆者の視点で描き出している、一種の裏話本といえるかもしれません。とはいえそれだけでなく、筆者の視点から見たPCショップのレビューなどもあり、アキバへPCパーツを探しに行く際の参考書としても役に立ちます。というか、今度アキバへ行く際に参考にしたいと思いました(笑)。ただ、表紙がアニメ風というか、最近流行の「萌えと絡めた書籍」風な体裁は、ちょっと買いづらかったのですが(笑)。(そういえば毎日コミュニケーションズでしたっけ? 著作権ガイドとかCPUのつくりかたなんていう、萌え系書籍を発行したのって)
そんなこんなで内容的には十分満足できたのですが(ちと価格は高いと思いましたけど)、少し引っかかる部分というか、ちょっとこの部分はアレだろうという部分もありましたので、そこを書いてみます。こちらは、かつて家電販売店でPCやPCパーツを売ったりユーザーサポートをしていた、私の視点からの意見です。アキバという激戦区での店長職にあった筆者の方と、田舎の家電量販店勤務の私とでは見解が違うのでしょうが、まあこれは私なりの見解ということで。
まず一点。こちらは元家電販売員としての意見ではないかもしれませんが、万引きの問題について触れている部分。
(万引きの) 常習犯と思われる人物がアキバのどこかの店に現れると、(共同防犯システムを作って) 提携している他のショップにも顔写真付きの警告アラートが伝わる仕組みを作れば面白いことになりそうだ。
(P153「はみ出しレポート」より、一部補足して引用)
それって、プライバシー上の問題ありませんか? 特定の誰か(万引きのブラックリストに載っている人物と、筆者は定義している) を判別するシステムということは、それ以外の万人を記録・照合して個人を判別し、それをネットワーク化して転送する、ということですよね。各店が個別に監視カメラで自己防衛、というのならば問題はないのでしょうが、それを様々なショップで共有化する場合は、問題が生じる可能性もあるでしょう。
例えばデータの取り扱いにしても、プライバシーポリシーが各ショップ間で違うと、そこから個人の映像が万一流出でもすれば、それはシステム全体の信頼にも関わります(今回のYahoo BBの件がいい例ですね)。また、個人識別システムが万一誤認識した場合は、それこそ名誉毀損ものです。
確かに犯罪に横のネットワークを作って対抗する、地域ぐるみでの防犯をするということは重要であり、また有効でもあるでしょう。しかし、イギリスが実施しているような、街中という街中に監視カメラを張り巡らし、犯罪抑止や犯罪者を発見するのに役立てるという「監視社会」が本当にいいのかどうか、特にプライバシーの点から問題にされているのも事実です。しかも、イギリスの場合は一応「国家(警察)」が行っている監視であり、その情報の取り扱いについても多少は信頼できるかもしれませんが(日本の警察ほど腐ってもないでしょうし)、同様の監視ネットワーク(この例では万引き犯をブラックリストで管理するという、よりプライバシーに踏み込んだもの) を「営利企業」が管理・運営するといった場合には、一個人として不安を覚えます。(もちろん政府がやる作業も杜撰なものがあるでしょうが、もともと多くの個人情報は国が管理してますので、見ず知らずの企業がやるよりは安心できるでしょう)
正直、私はそんな監視されている地域になんて行きたくないです。エロ本を買ってたりしたら恥ずかしいじゃないか! 最近の監視カメラはズームアップなんかも自由自在で、手元までくっきり映せるそうですし。自分の購入したものが、その店舗だけでバレてるなら仕方ないにしろ、よそのショップにまで共有されでもしたらたまったもんじゃありません。このシステムでは万引き犯の顔を識別後にアラートを出すだけのようですが、そもそもの監視カメラの映像は、どこかが管理するんでしょうしね。
……って、筆者様のアイデアを実運用に照らして考察するのもどうかと思うんですが、ちょっと気になったので書いてみました。Yahoo BBの件もあったことですし。
で、二つ目。開封済みの商品について述べている部分ですが、
雑誌社に見せるためなどで、開封した商品は中古品ではない。メーカー保証・ショップ保証は変わりなくついている。仮に袋や箱があまりに汚損した場合には、きれいに包装し直す。全く使用はしていないのに、それだけのことにグダグダ文句をつける人もいる。そんな人間は、自作なんてやめてメーカー製PCを買って欲しいものだ。
(P163「hotlineの裏側」より、その一部を意訳して引用)
言い分は間違ってはいないと思うけれど、私が一番賛成できなかった部分がここです。保証書捺印などでやむを得ず開封する以外の理由(販売員のミス・お客様にマニュアルなどを見せて欲しいといわれたときなど) で開封した場合は、その旨を記載して販売するべきでしょう。少なくとも、私の勤務していた店ではそうでした。そして気持ちばかりではありますが、値引きをして販売していました。例えそれが利益率の低い商品であっても。
この筆者の方のお気持ちももっともですし、その理屈もわかります。が、お客様は「新品」といえば「誰も開封していないもの」という意識で買われます。それがたとえ写真撮影だけだとしても、他人が開封したものを新品として販売するというのは、お客様を裏切る行為でしょう。仮にその事がバレた場合、それこそ「グダグダ言われ」たり、店としての信用を無くすことにも繋がるでしょう。
ここで私が問うているのは「販売側のモラル」であり、この筆者の方が主眼に置いているのは「販売側の利(利益・合理性)」ですから、どちらが正しいということはないのかもしれません。店のスタイルとして、そういうことを行っている店もある、程度の事なのでしょう。ただ、その行為がお客様を裏切る行為となっているのではないか? といった部分については、考えてみる必要があるのではないでしょうか。(まあ、田舎の家電店と生き馬の目を射抜くアキバとでは、商品の取り扱いも変わってしまうものなんでしょうけどねぇ…)
確かに開梱品と表示してしまえば、その分価格を下げて売らざるを得ないですし、その表示・説明コストもかかります。ですが、そのようなことをしっかり行うことで、逆にそのショップに対する信頼は増すものです。ユーザーとしては、たとえ開梱品が数百円しか値引きされていなくてもいいんです。このショップは客に対して真摯に向き合ってくれている、という姿勢が伝われば、またここで買おうと思ったりするものなのですから。
……とまあ、かなり長くなってしまいましたが、ちょっと気になることを書いてみました。本当はお客との接客について書かれている、実体験の話の中にも気になる部分はあったんですが、それは個々人の感じ方によるでしょうからやめておきます(笑)。総評としては前述の通り、かなり楽しめました。批判部分だけ見ると、気に入らなかったみたいに感じられるかもしれませんが(笑)、全体としては面白い読み物でした。この分野に興味がある方には、楽しめる本なのではないかと思います。